2015年4月17日金曜日

租税法律主義②

租税法律主義と言う考え方を理解する上で重要な武富士事件を振り返っておきたい。

概要は次のようなものです。


武富士の会長が香港在住の長男(非居住者)に外国会社の株式(国外財産)約1,600億円分を贈与しました。


当時の税法の規定においては、「非居住者に対する国外財産の贈与については贈与税を課さない」となっていましたので、当然非課税として申告していませんでした。

これに対して税務当局は、実態のない香港移住を用いた贈与税の租税回避スキームだ!と激怒しました。

納税義務者の武富士長男は、修正申告に応じるはずはなく、税務当局は約1,300億円を追徴課税する更正処分を行いましたが、これに武富士側はまっこうから異を唱えて税務裁判となりました。


最高裁まで争われたこの税務裁判において最高裁は、実に法治国家として適正な判決を下し、その判決文の最後において租税法律主義の在り方を明確に示しました。


要約すると以下のようになります。


「一般的な法感情の観点から結論だけをみる限りでは,違和感も生じないではない。
しかし,そうであるからといって,個別否認規定がないにもかかわらず,この租税回避スキームを否認することには,やはり大きな困難を覚えざるを得ない。」

「納税は国民に義務を課するものであるところからして,この租税法律主義の下で課税要件は明確なものでなければならず,これを規定する条文は厳格な解釈が要求されるのである。」

明確な根拠が認められないのに,安易に拡張解釈,類推解釈,権利濫用法理の適用などの特別の法解釈や特別の事実認定を行って,租税回避の否認をして課税することは許されないというべきである。そして,厳格な法条の解釈が求められる以上,解釈論にはおのずから限界があり,法解釈によっては不当な結論が不可避であるならば,立法によって解決を図るのが筋であって(現に,その後,平成12年の租税特別措置法の改正によって立法で決着が付けられた。),裁判所としては,立法の領域にまで踏み込むことはできない。

後年の新たな立法を遡及して適用して不利な義務を課すことも許されない。結局,租税法律主義という憲法上の要請の下,法廷意見の結論は,一般的な法感情の観点からは少なからざる違和感も生じないではないけれども,やむを得ないところである。」


この確定判決がもたらしたものは非常に大きいものとなりました。

課税するには法根拠の存在が不可欠であり、拡大解釈は認められないということから、現在の税法上適法なものを否認することは出来なくなったのです。

また、法に穴があるならば法改正すればいいのだが、その新しい法律を過去に遡って適用することは許されないとも明確に述べられています。

さらに、一旦課税した約1300億円を返すにあたり、その間の利子(なんと、約400億円!)を国民の血税で支払うことになったことに対して、税務当局への大きな批判が巻き起こったことは言うまでもありません。


この判決以後、税法の要件を満たしていないものに感情的な課税をすることがなく、租税法律主義の精神が守られるようになったことは、法治国家として大きな前進だと思います。


なお、判決文にもありますように、非居住者に対する国外財産の贈与に対しては、その後の税法改正によって現在は課税になっています。

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